「家族が透析(血液透析)を受けることになった」
「食事はどんなものを用意すればいいの?」
そんなお悩みに対して今回から5回に分けてお話をしていきます。
まず1回目のテーマは「食事の適量」
透析導入までの流れは大きく2パターンに分かれるようです。
- それまでに腎機能の低下に気づいて腎臓病の食事療法をしてきた方。
- 腎機能の低下に気づくことができず、それまでの食生活をそのまま送っていたら急に透析導入となった方。
腎臓病の食事療法で特徴的なのは「たんぱく制限」、「塩分制限」、「カリウム制限」といったところです。
これらのうち塩分制限とカリウム制限は透析導入後も必要になりますが、たんぱく質に対する考え方が透析導入前と透析導入後で変わります。
導入前は「腎臓に悪いものは余計に食べない」という考え方なのですが、導入後は「必要なものはしっかり摂る」という考えに変わります。
つまり、それまで腎臓病の食事療法をしていた方は肉や魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品などを食べ過ぎないような食生活を送っていたのに透析が始まると「こんなに食べても大丈夫?」と思うような量を食べることになるのです。
たんぱく質で言えばそれまでの1.5倍以上の量を摂ることになります。
ただ、健康な方のたんぱく質量よりは少なくなります。
また、これまで腎臓病の食事療法を行っておらず急に透析が始まった方はそれまで食べていた量よりも減らす必要が出てくることがあります。
たんぱく質やエネルギー量が足りず、低栄養状態になると「やせ」や「感染症にかかりやすくなる」、「体力が低下する」といった症状が出てきます。
腎臓への負担をできるだけ抑え、たんぱく質を必要量摂取するためには肉や魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品などの良質のたんぱく質を上手に摂る必要が出てきます。
「透析患者の食事基準」ではエネルギーは標準体重1kgあたり30~35kcal、たんぱく質は標準体重1kgあたり0.9~1.2gとなっています。
ちなみに標準体重の求め方は「身長(m)×身長(m)×22」です。
仮に身長160cmの方の場合次のようになります。
エネルギーは1.6×1.6×22×30~35≒1700~2000kcal
たんぱく質は1.6×1.6×22×0.9~1.2≒50~68g
正確には性別、年齢、体重などにより異なりますが、ここでは一旦無視をして身長だけで考えました。
では実際に何にどの程度のたんぱく質が含まれているか見ていきましょう。
- サバ1切れ(80g)・・・16.5g
- アジ1尾(160g 正味70g程度)・・・14.2g
- マグロ刺身5切れ(60g)・・・15.8g
- カニ風味かまぼこ1本(15g)・・・1.8g
- 牛肩ロース・脂身付き・薄切り(60g)・・・9.7g
- 豚もも・脂身付き・薄切り1枚(25g)・・・5.1g
- 鶏ささ身1本(45g)・・・10.4g
- ベーコン・薄切り1枚(18g)・・・2.3g
- ロースハム・薄切り1枚(10g)・・・1.7g
- 鶏卵・M玉1個(正味55g程度)・・・6.5g
- 木綿豆腐(100g)・・・6.6g
- 絹ごし豆腐(100g)・・・4.9g
- 牛乳200ml・・・6.9g
詳しくは大型書店やネットなどで販売されている「腎臓病食品交換表」などを活用してみてください。
先ほどの身長160cmの方(たんぱく質50~68g)の場合、一つの例として1日あたりサバ1切れ、豚もも・脂身付き・薄切り2枚、鶏卵M玉1個程度となります。
これは他の食品から摂るたんぱく質を差し引いて計算したものです。
ただ、献立全体を見て他の料理でどれだけたんぱく質を使っているかで変わってきます。
ちなみに、主食の量は1食当たりご飯180gで考えました。
では、お話をもとに戻しましょう。
私たちが主食として食べている米、小麦(パン、麺類)などにもたんぱく質は含まれていますが動物性のたんぱく質の方が良質のたんぱく質になります。
「たんぱく質をしっかり摂るために主食を減らせばよいのでは?」と思いましたか?
主食にはエネルギー源としての役割があるため主食もしっかりと摂らなければなりません。
そこで「たんぱく質調整食品」というものを紹介したいと思います。
ご飯やパンなど通常の物よりもたんぱく質を減らした物があります。
透析を受けられている方全員が必ずこれらを使わなければならないというわけではありませんが、これらを使うことでおかずに使えるたんぱく質が増えて食事内容を豊かにすることができます。
先ほど例で挙げた物よりも食事内容が豊かになります。
もう一つ「エネルギー調整食品」も紹介しておきましょう。
透析を受けられている方の食事はこれまでお話してきた通り健康な方の食事と比べるとたんぱく質の量が少なくなるので摂取エネルギーも少なくなってしまいます。
そこでたんぱく質以外でエネルギーを補うために「粉あめ」という甘味料や「MCTオイル」という油を使うことがあります。
他にも揚げ物や炒め物を多く献立に取り入れるなどの工夫もあります。
今回は適量(主にたんぱく質)についてお話をしました。
今回の記事でこれまでの悩みが少しでも解決したと思っていただければ幸いです。
参考となるような書籍や補助食品も紹介しましたのでぜひ活用してみてください。
かかりつけ管理栄養士
中野照規様
今回ご紹介した書籍